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がんばる.
ほんのりと赤い夕焼けの光が教室の窓から差し込んでいる。少し汚れてくすんだ窓によって、柔らかくなったその光は俺と秋坂しかいない教室を温かく包み込んでいた。外は冬らしい刺すような寒さなのだろうけど、締め切られた教室の中は暖まった空気で満ちていて、心地よかった。

「先輩って、好きな人いるんですか?」
 委員会の会議が今日はない、ということを伝えにきた秋坂はそのまま俺の席の前に座り、俺たち以外のクラスメートがいなくなってしまう時間まで教室に居座っていた。他愛もない話に花を咲かせていた俺たちは同じ委員会をしていて、秋坂は俺に出来た初めての後輩だ。
 秋坂の友人がつい最近、好きな人と付き合い始めたという話題が上がり、ほんの少しの気まずさと緊張が俺と秋坂の間に生まれて小さな沈黙が流れた後、秋坂がその小さい体をより小さくしながら上目使いで遠慮がちにそう、尋ねてきた。ばっちりと目が合ってしまい、俺は慌てて反らして意味もなく窓の外を見つめる。
「んー、好きな人か。わかんねぇな」
 俺ははっきりとしない自分の気持ちを紛らわすに席を立つ。秋坂の目の前に座って、ジッとしてなんていられなくて、なんとなく黒板消しを手にとり黒板を綺麗にし始める。
「わかんないって、なんですか……それ」
「知らね。お前はどうなんだよ」
 きゅー、と黒板消しが黒板を擦る音が聞こえる。
「わ、私はいますよ。もちろん」
「へー」
 いったいどんな表情をしたらいいか、わからない。これは、なんだ? 放課後の教室に二人きり、俺と秋坂は先輩と後輩で、俺は秋坂が嫌いじゃなくて、一生懸命黒板を綺麗にしている俺がいて。考える。少しのうぬぼれと,それをもみ消そうとする悲しい自分。
「誰? とかは聞かないんですか?」
 秋坂も椅子から立ち上がり、俺の左隣に来ると白いチョークを手にとって黒板に落書きを始めた。女の子らしい丸くて、可愛い文字の羅列が作られていく。

『ウマはキリンが好きで、キリンはライオンが好きで、ライオンは人間が好きで、人間は――』

「せっかく綺麗にしたのに」
 よくわからないループを書き始めた秋坂。俺はその軌跡を追うように黒板消しを動かして文字を消していく。
 秋坂が左へ、左へ。俺も左へ、左へ。
「聞いてくれないんですか?……じゃ、教えてくださいよ。先輩の好きな人」
 カタン、とチョークを置く音。立ち止まった秋坂は俺と向き合う。また目が合い、やっぱり俺は気まずくなる。
「いや、だから知らねって」
「なんですか、そうやってごまかして!」
 秋坂は普段よりも少し大きな声でそう叫ぶと、うつむいた。
「ごまかすって、そんな気は」
「ないわけないです。だって私が、年下の女の子がこんなにも頑張ってるのに、どきどきしながら頑張ってるのに、先輩……わかってるくせに」
 潤んだ瞳を上げて、見つめられる。胸の奥の方で何かが音を立てたように感じた。間の前に立つのは後輩の秋坂。きっと,そう,おそらく,がんばるガール。
「無神経」
 俺が一生懸命脳内で自分を鼓舞して,言葉を放とうとしたとき,ぼそっと、秋坂がそうつぶやいた.そして,彼女のテンションは一転した。顔を真っ赤にして声を荒立て始める。
「そうです、先輩は無神経なんですよ。わかってるくせに、知らない顔をして堂々ともてはやして」
「もてっ――」
一歩一歩、彼女は俺に詰め寄り、それと反対方向に俺の足は後ろへと下がる。
「だから、委員長の言われたことをろくに出来なくて、いつも私の仕事が増えて、企画出したときも結局本番で失敗して」
「か、関係ないだろ。無神経と、それとは」
「そうですよ! 関係ないですよ。クリスマス会の時だって、町田先輩と篠野さんとが成功するように仕組んだのに、先輩が軽々としゃべったせいで、ややこしくなって」
「あーあー、わかったから」
 俺は両手をふって、秋坂の暴走を止めにかかる。これ以上の愚痴を吐かれたら、これから色々とやりづらくなりそうだ。
ごまかしていたワケじゃない、今確信出来たんだ。簡単に包み込めそうなくらい小さくて、こんなにも一生懸命な彼女を愛おしく想う自分の気持ちとやらに。

「だって、先輩が――」
「わかったから。それ以上騒ぐならその口、塞ぐぞ?」
 
 好きな人が知りたいなら、後でゆっくり教えるし、ゆっくり聞いてあげる。俺は秋坂の声を遮った。
「……」
 沈黙が生まれる。
 野球部の声は爽やかに、吹奏楽部の練習の音は少し淋し気に、俺たち二人きりの教室に、静かに響いていた。
「……ぷっ」
 不意を突かれて、呆気にとられた表情を浮かべていた秋坂の声がその沈黙を破る。ぽかんと開いていた口から笑い声があふれ出した。
「あはははははは」
「な、なんだよ」
 俺はさっき自分が言った言葉の意味を思い直して、照れを隠すように頬をかいた。
「やってくださいよ」
 笑いすぎで目に涙を浮かべていた秋坂は、その涙を制服の裾で拭うと。
 世界でたった一人、俺にしか見る事が出来ないだろう、見るもの全てを幸せにするような笑顔を見せた。
「めちゃくちゃ、喜んでやりますからーー」



 がんばるガール.
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【2012/11/19 23:31】 | 日記 | トラックバック(0) | コメント(4) | page top↑
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