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せいじゃく! ※そつろん番外編2
 時計の針は深夜の三時を回っていた.研究室には僕だけが残っていて,要旨の添削に追われてパソコンと向き合っている.さっきまで先輩も明日締め切りの先生からの託があったようだが,それを終えたようでいつもより少し元気のない声であいさつを残し帰って行った.静かな研究室.いつもは自分の他に誰かが必ずいる空間に一人と言うのは少し不思議な気分だ.そして,解放感がある.エアコンから温められた風が吹き出す音が聞こえる,水槽の水が流れる小さな音,自分のキーボードを叩く音,時折する咳払い.たったそれだけの音がこの世界を包んでいた.
 ふと,手を休めて周りを眺めてみる.
 暖められて乾燥した空気が少し気になり,僕は椅子から立ち上がり外に向かう.大きく背伸びをしながら,僕は非常階段へと出た.煙草を咥え,先端を小さな火で燻らせる.紫煙が上り,僕は浅く息を吸い,吐きだす.寒さによって息が白くなるのか,それは煙草の煙で白いのかどちらかわからなくなる.冬に煙草を吸うのが僕は好きだった.
 ああ、星が綺麗だ。
 非常階段の手すりにもたれかかり,空を見る
 僕にはオリオン座くらいしか見分けはつかないけれども、いつだって僕らの頭上には恐ろしく膨大な宇宙と、無限が広がっている。
「入り口と、出口」
 僕は小さく呟く。そして、煙草の煙を吸い,吐きだす。
 それは、始まりと終わり。上と下。生と死。牛肉と焼肉。1人の時間と宇宙。
 手足を伸ばして、宇宙を見上げる。ちっぽけな僕には宇宙を見上げることしかできない。
 遠い。
 星々は今も爆発を続け、誕生と破滅を繰り返している。宇宙は無限に膨張を続ける。
 想像して、背筋がゾッとする。
 今も地球上で、死んでいく生命は星になって、宇宙へと飛んでいく。
 宇宙はその巨大な数を受け止めるために、今も膨張を続ける。
 生命は、宇宙へ。僕もいつか宇宙へ行くんだ.煙草を吸うことはもしかしたら,その近道になるのかもしれない.そう考えて少し愉快な気分になる.向かいの研究棟に点る明りはまばらで,胸の奥がうずうずしてきた僕はひゃっほう,と叫びたくなる.
 その湧き出てきた思いと一緒に煙草を揉み消す.ひゃっほう,と叫ぶには僕は先輩が必要なんだ.  
 灰皿にその煙草を投げ入れ,もう一度宇宙を見上げる.息をはくと白く染まった.一度身震いをして,自分にしか聞こえない声で呟く.
「ひゃっほー」
 その小さな空気の振動は白い息が空気に溶けるように消えると同じで,この世界に溶けて消えていく.研究室に戻った僕は椅子に座り,自分の書いた要旨を眺める,そしてその出来栄えに嫌気がさして少しの間膝を抱えてまるまる.

 パソコンを操作してBGMを流す.こんな夜は陽気な曲がいい,名曲よりもポップで新鮮なやつにしよう.若者らしく勢いでぶつかるようなロックンロール.
「静寂とロックンロール」
 それは入り口と出口.始まりと終わり.上と下.1人の時間とみずこうの時間.
 さあ,早く寝よう.今日を終わらせよう.静かな研究室に先輩が足りない.
 僕は席を離れ,先輩の机に向かう.開封済みのチョコレート菓子を見つけたわけだが,さて,これをどうしようか.
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【2012/01/27 04:07】 | 短編小説 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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