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ようかん!
 二度寝というものには,魔物が潜んでいる.
 朝,目覚ましによって起こされた僕は,寝ぼけ眼でそのけたたましく音を巻き散らかし,安眠を妨げる獲物を探す.ベッドのまくら元を探り,それを掴むと時間を確認してスイッチを切った.8時30分.研究室行くにあたってぎりぎり間に合う時間だ.さて,起きよう.僕はそう思って瞬きを一つ,した.
覚えているのはここまでである.
 次に目を覚まし,意識を取り戻した時には11時を過ぎていた.この間に,何が起こったのか,僕にはまったく理解できなかった.僕は目覚ましを止めて,瞬きをしただけのつもりだった.でも,現実は二時間以上の時間を刻んでいたのだ.まるで,タイムスリップをした気分になる.誰もが一度は必ず経験したことがあるだろう.これが二度寝に魔物が住んでいると言われる由縁である.
「ああ」
 今更後悔しても遅いのだけれども,僕は小さくため息をこぼす.そして,重い体を動かしてベッドを抜け出した.どんなに,眠かろうが,しんどかろうが,遅刻をしようが,雨が吹き嵐が来ようとも僕は研究室へと行かなければならない.なぜなら,卒論生だから.
 多田に連絡をとると,今日は特にゼミもなく,先生も忙しそうだから,遅刻したことをそんなに気にしなくても大丈夫.と言ってくれた.その言葉に安堵の息を漏らし,僕は少しの余裕を持って学校へと向かった.

 アパートを出て,原付を飛ばして学校へと向かう.地方の大学ということで,最寄りの駅からも自転車で半時間はかかるため,ほとんどの学生が車等の文明の利器に乗って学校へ通っている.僕もその例外になく原付で登校していた.
 駐車場の端に愛車を駐車し,いつもの非常階段を登ると,みずこうに到着する.
「おはようございます」
 そして,ぎりぎり朝と言える時間に,挨拶をしながら僕は研究室へと入った.
「なんだよ,宇崎.いいタイミングで来やがって」
 おはよう.という挨拶を原咲や多田がしてくれる中,香川先輩はそうぼやいた.その先輩の手には小さな箱が抱えられている.
「なんですか,せっかくしっかり真面目に遅刻しても,来た後輩に対してそれはないですよ」
「うさぎちゃん,遅刻した時点で真面目じゃないよー」
 先輩はその箱を隠すように抱え込んで,僕に向かって子供がするように舌を出してあっかんべーをしてきた.その姿に呆れて,僕は「はいはい,遅刻してすみません」と,言いながら席に着く.
「先生は?」
 隣の席で,今日は珍しく真面目にエクセル計算にいそしんでいた多田に尋ねる.さすがに,卒論の提出が近付くにつれて,マインスイーパーや,ソリティアをする姿を見なくなった.そのことを思って,少しさみしくなる.卒論はこんな風に,人間の自由を奪って個性も奪ってしまうのだ.
「今は授業だよ,夕方まで帰ってこないっぽい」
 それなら,遅刻したことを詫びるのは帰ってきてからでいいだろう.僕はそのまま自分の席に腰を下ろす.
「ウサギがいなし,私のお土産を食べようって,思っていたのに.矢先にウサギが来るんだから」
 先輩が大事そうに抱えている箱を指しながら,原咲がそう言って,給湯室へと入っていく.
「なるほど,だからさっき先輩があんな風に言ったわけね,原咲,僕ももらっていいの?」
「いいよ,ウサギもお茶いるでしょ?」
 ポンっ,と小気味いい空気音とともに,原咲が尋ねる.お茶筒を開けた音だろう.「ありがたく」と返して,僕は立ち上がった.先輩の隙をついて,箱を奪おうとしたけど,先輩は僕の動きを華麗によけて,給湯室へと入って行く.
「多田も食うの?」
「うん」
 僕の声に反応し,多田も作業を止めた.給湯室へ向かうと,香ばしい玄米茶の香りが漂い,机の真ん中に開封された箱が置いてあり,中身が羊羹であることが分かった.
「どうしたの? このようかん」
「私のあばあちゃんが送ってくれたの.私甘いもの好きだから」
 4つの茶碗を並べ,適切な順序と手順を踏み,お茶が急須から注がれていく.1,2,3,4.と順番に淹れられることにより,均等な濃さの良いお茶が入るのだそうだ.
「味が3種類あるんだけど,どれがいい?」
 目の前にお茶の入った茶碗が置かれる.こういうときにしっかりと動いてくれる女子は本当にすごいと思う.
「じゃあ,普通のやつ」
 僕はそう言って,箱から普通の黒い餡の羊羹をとった.
「じゃあ,僕は栗のん貰うよ」

「お前ら,がそれなら俺はこれにしようかんな」
 先輩が僕らが選んだあとに,素晴らしくニヤニヤした表情で,白餡の羊羹をとった.
「先輩,その一番羊羹らしくない色の奴を食べるんですか? そんなの僕にはようかんがえられないです」
 多田が自分の羊羹の封を切りながら,とんでもなくニヤニヤした表情で先輩の選択にケチをつける.確かに,白い羊羹は少し,違う気がした.
「でも私は,先輩はこの羊羹を選ぶよーかんがしてたよ」
 原咲は自分の羊羹に栗を選んだようで,残った羊羹の箱を片付けながら同意の言葉をつぶやく.なかなかにニヤニヤした表情をながら.
 そして,全員の目線が僕に集まった,次はお前だよ.と言わんばかりに.
 ああ,わかっているよ.僕の頭はさっきからフル回転している.先輩がこれにしようかんな,なんてくだらないことをいった時点でこの戦いは始まっていたんだ.こうなるようかんはしていた.だから,しっかりと,僕だってようかんがえている.
「じゃあ,原咲ありがとう」
 仕方ない,今の僕にはこれしか残されていない.もう,後戻りなんてできなかった.変な汗が出てくる.これはもう,遅刻した罰なのかもしれない.
「みんな,ようかんで食べようか!」
 恥を捨て,僕は羊羹を手にしたまま言う.もっとも使い古された,定番の羊羹ネタ.
「は?」
 案の定の反応が返ってくる.3人ともが待ってましたと言わんばかりに.もう,その時点で僕の心は挫けた.甘い羊羹をかじる.その甘みには,渋い玄米茶が凄く合った.

 こんな感じで,みずこうの日々は進む,せーの「そつろん!」



「……,っておい,香川先輩ひとり,「ようかん!」って言ってんじゃねえよ!!」
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【2012/02/09 03:00】 | そつろん! | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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