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いとなみ!
今日,ハミングライフという映画を見ました.
僕の好きな小説家の中村航さんという方の原作の映画で,1つの木をきっかけに生まれた小さなつながりのお話です.ほっこりする系の,邦画が好きな方は見てもいいかもしれません.もちろん,原作の小説の方がしっくりきますが.

で,その映画を見てて,すごく懐かしいものを思い出したのですよ.
僕が高校2年生の時に書いた,しっかりと書き終えた初めての小説を.それは,1つの公衆電話をきっかけに生まれた小さな繋がりのお話で...ハミングライフとすんごい似てたんですね!! ぐうぜん!
 こんな風に,自分の好きな小説家と同じような感性で物語を作っていたなんて,嬉しいです!!
 ということで,昔のデータをひっぱり出してきて,改めて見て,一通り悶絶したのち,現在の自分の作風に修正を加えてみました.
 昔の自分は主人公の一人称が「俺」だったり,また地の文で主人公の独白があったり,いろいろ恥ずかしいところがいっぱいありました.その辺を少し直しながら,昔の自分の若さを残しつつ作品としました.
 恥ずかしくて,読むことがしんどくなるやもしれませんがよければどうぞ...





誰にも使われていない公衆電話がある。
僕が通っている学校と家とのちょうど真ん中あたり、交差点の角の公園入口にある公衆電話。
 毎日のように朝と夜の登校下校の時に前を通るけれども,誰かが使っているところなんて見たことがない。
少し古びた公衆電話.
誰の声も聞けない公衆電話.
 緑色の当たり前の公衆電話。
 
短篇『公衆電話+少女』


 今日は天気が夕方から悪くなるらしい。
 朝の支度の間,リビングで流れていたニュース番組で,必要以上におめかしをした女性のキャスターがそう言っていた.春の風に乗って運ばれてきた低気圧の影響らしい。
 綺麗なキャスターが「お出かけの前には傘を持って行きましょう」と可愛らしくアドバイスの声をかけてくれて,その春風のような声に重ねる様に,母親の声が「あんた,ほら,傘もっていきなさいよ」と僕の脳内へ侵攻してきた.「それでは,お気をつけて」とキャスターがわざとらしさをうまく隠して笑う.支度を終えた僕は玄関で傘を手に取り,家を出た.
 だから放課後,雨粒が地面に叩きつけられていようと,傘を持ってきていた僕には関係なかった。
どこにでもあるような,男子学生が使うには余りにもありふれた紺色の傘を開いて僕は,帰路を辿る.リズム感が乏しい,ただただ一定の量で傘を叩く音がする.この様子だと,しばらく雨はやみそうになかった.出来たての水たまりを避けながら僕は友人と2人,地面から跳ね返る水しぶきにズボンの裾を濡らしながら歩く.そして公衆電話のある公園の手前,交差点で友人に「また明日」と言い合って別れた。
 今日は雨が降っているせいで普段よりもうす暗い。いつもなら点いていない電灯を見上げながら僕は公園の前を通ろうとした。
 その時、気付いた。
 公園の入口にあるいつも誰にも使われていない公衆電話。その中に人がいることに。
女子高生だ。僕の通う高校とは違う制服。銀色のフレームの眼鏡をかけた少女。10円玉を数枚公衆電話に入れて受話器をもち、左手で番号を押していた。
 僕は公衆電話の中で行われるその光景が珍しくて,思わずその様子に見とれる。電話として使われて当たり前であるはずの公衆電話なのだけど,改めて使用されている状況を目の当たりにするのは初めてだった.
 少女は少しの間耳に受話器を当てていたが、しばらくして残念そうな表情を浮かべたあと,受話器を戻した。
 彼女は戻ってきた10円玉を財布へと戻し,腕時計に目をやり、そして交互に空を見上げていた。あからさまに落胆した表情が,その眼鏡の似合う顔つきにマッチしていて,どこかフィクションのワンシーンを見ているようだった.
 空の色は相変わらずの灰色。雨のリズムは変わらず一定で,止む気配は感じられない。
 僕はそこで自分があまりに彼女に夢中で,突っ立っていることに気付いた。
見過ぎた。あまりにこれは怪しいだろ。
そう考えると,彼女の行動を見ていた自分がすごく恥ずかしくなった。慌てて目を逸らして帰ろうとする。
「――っ」
 と、その瞬間彼女と視線が交差した。
 僕は気まずさに負けてすぐに目を伏せ、そのまま何事もなかったように足を動かす。
 目があった瞬間の驚いた表情.その前に見せていた,どこか淋しそうな彼女の瞳が頭から離れなかった。

 家に帰り,自分の部屋へと戻ると僕は制服のままベッドへと倒れ込んだ。
 枕もとの目覚まし時計で時間を確認する、大小の針は6時を示していた。
 目を閉じると、あの少女のことが気になり始める。彼女の事は今日,初めて見た.それなのにどうして,こんなにも気になるのだろう。
 なんだか手持ち無沙汰に思えてきて,ベッドから起き上がり部屋を歩き回ってみる。携帯電話を開いて,閉じる.外はまだ雨だ、さっきよりも雨足が強くなっている気がする。
 たぶんおそらく,彼女は傘を持っていない。
 微かな記憶をたどってみる。彼女の手元に傘はなかった気がする。そう,なかったんだ.
「じゃあ――」
 思わず声に出てしまった。
 今の時間は6時を少し過ぎたところだ。まだあの公衆電話で雨宿りをしているかもしれない。あんな公衆電話を使っているということは携帯電話持っていないか,電池が切れて使えないのだろう.きっとそうだ.
 考え出すと,じっとしていられなくなった。
まるで物語のような出会いのシーンを思う.心の奥が,ぐっとなって,それと同時に恥ずかしさも襲ってくる.
 部屋を出て、玄関で自分の傘ともう1本別の傘を手に取った.僕はまだ16歳だ,こんな時に走りだせないわけがない.
「母さん、ちょっと学校に忘れ物」
 そう告げて家を飛び出す.もしもまだ彼女がいたらこの傘を渡そう。根拠もなく、僕は彼女がまだいるような気がしていた。何を話そう,どう説明しよう,なにも考えてなんていなかった.雨の勢いは確かに強くなっていた.急ぐ足をゆるめようかと考える.でも,思いとどまった.ここで足を止めてしまうと,いつもの冷静な頭が働いて,簡単に後戻りしてしまいそうだったからだ.10分かかる道のりは雨にも関わらず5分ほどですんだ。
 自分でもよくわからない。なんでこんなにも彼女のことが気になるのか。
 「らしくないかも……」
 僕は公園の入口で立ち止まってつぶやく。今さらそんなことを言っても仕方ないのだけれど,誰でもない自分へのくだらない言い訳のようにそうぼやいて,僕は前を向いた.
 彼女は、いた。
 公衆電話の中でひとり、つまらなさそうに空を見上げていた。
 もう何も考えずに公衆電話へと近づく。
 ジャリジャリと砂の音がやけに大きい。雨は確かに傘に降り注いできていた.
 彼女が僕に気付く。怪しく思われると思って反射的に顔を伏せようとした。
 が、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。眼鏡のよく似合う顔に,肩にかかる長さの自然なショートヘア.改めて近くで見ると綺麗な少女だった。
 僕は少し戸惑いながら公衆電話のドアを引く、そして持ってきた傘を差し出した。
「……、これ使ってよ。傘、持ってないでしょ?」
 無愛想だな、と自分で思いながらとにかく言葉を出した。あるジブリ映画で,傘を無理やりに貸す男の子を思いだす.彼の気持ちが少しだけ分かった気がした.
彼女は差し出された傘と僕を交互に見る.もしかしたら,気持ち悪いと嫌な顔をされるかもしれない,そう考えると今すぐにここから逃げ出したくなった.しかし,そんな僕の不安とは裏腹に彼女はしっかりとした笑顔を見せる.僕はその笑顔に,もう,完全にやられてしまった.
「………じゃ、僕はこれで。気をつけて帰って」
一言でいえば,惚れてしまったのだ.今度は違う意味でここから早く逃げ出したくなった僕は,傘を押しつけるように渡してその場を後にしようとした.そう言い残して,僕は彼女に背を向けて歩き出そうとする.その時,僕の背中に彼女の声がかかった.
「ま、待って。ありがとう。さっきの人。目が合った」
彼女も僕と同じくらいにこの状況に焦っているようだった.その高揚とともに嬉しさの混じった声がする.
「わざわざ、家に帰ってから持ってきてくれたんだよね、ごめんなさい,なんだか君が助けてくれる気がして、ここで待ってたの」
 少し、嬉しくなる。いや,少しどころかこのまま傘を投げ捨てて走り出しそうになるくらいに僕は嬉しかった.目が合っただけなのにお互い覚えているなんて。
「いや、家、すぐそこだから」
 この動揺と,テンションを感づかれないように振り返らずにそのまま返事をする。
「じゃ、濡れないように帰ってください」
 もう無理だ,恥ずかしくて顔なんて見れるわけない。早く,早く,自分のベッドに倒れ込んでバタバタと後悔しながら,わけのわからない叫び声をあげてしまいたかった.
「あ、名前……」
 微かに、確かに聞こえた彼女の声。
 重なって聞こえる雨が傘を打つ音。
 聞こえなかったのは雨のせいにして,僕は早足で公園を出た。
 家に戻り,心ここにあらずなことを母親に馬鹿にされて,風呂の中で思いだし湯船に潜り,ベッドの上で恥ずかしくなってどうしようもなくため息をついた.それでも,僕はゆっくりと眠った.女子ではない,恋する乙女でもない,ただの青春真っ盛りの男子だ.眠れぬ夜を過ごすほどには僕の心はかっこ悪くない.


 少しだけ困った。
 昨日はそのときの勢いで傘を渡してしまったが、どうやって返してもらおうか。
「根本」
 別に傘くらい構わないけどもう一度くらい会いたい。ここまで来たのだから,もう少しの進展が欲しかった.彼女とのつながりが欲しかった.
「おい、根本!」
 名前くらい聞けばよかったかも。
「ゆきちゃーん」
 昨日はその場で恥ずかしすぎて名前を聞く余裕なんて皆無だったのだから仕方ないのだけれども,なにか打開策はないのだろうか.傘を渡した少女について,考えに耽っていた僕だが、カンに障る言葉が聞こえてきたため顔を上げる。
「なんだよ木村! ゆきちゃんって呼ぶなって何度も言ってるだろ?」
 そこにはいつも一緒に下校する友人である木村が立っていた。
「わかってるよ、だって何度も呼んだっておまえが気付かないでいるからだろ」
 昨日の少女とは違ってあまり似合っていない黒縁めがねの木村は口を尖らせる。
「ああ,ああ,すまん.で,どうしたの?」
「え? いや、授業終わったのに、いつまで帰ろうとしないからどうしたのかなって思ってさ」
 ふと、時計の方を見遣る。時間は4時半を過ぎていて,放課後に入ったところだった.
「こんな時間か。もう帰るよ。木村は?」
「俺? 俺は今日は部活なんよー だから,じゃね、根本」
 わざわざ僕に声をかけてくれた木村は鞄と竹刀を担いで部活へ向かった。
 彼女にまた会えるかどうかはわからないけど、今日は考えるのはやめておこう.僕も机の横にかけていた鞄を肩に背負う。今日は昨日とは違い、曇も少なく,晴れている。

 交差点までの道のりを1人で彼女のことを考えながら歩いて来た。何度か同じ制服をきた生徒を見かけたが昨日の彼女の姿はなかった。
「やっぱ無理か」
 名前も知らない、約束もしていない。それなのにもう一度会うことは無理なのだろう。もしかしたら,昨日の彼女は雨の日にしか現れないそういった類のものかもしれない.そんな馬鹿らしいことを考えながら交差点を横切り、公園の前を通りすぎようとした。
「ん?」
 ふと目を向けた公衆電話。そこに彼女の姿はやはり、なかった。
「あれって」
 でも,そこには見覚えのある傘があった.公衆電話のボックスの中に1本,ひっそりと立て掛けてあった。嬉しくなって思わず早足で近づく。ドアを引いて公衆電話の中に入り傘を手に取る。
 それは昨日彼女に渡した傘だった。
「返ってきた……」
 返ってこないと思っていたものが返ってきた。それは凄く有り難いが、手渡しで返ってくるのがベストだった.これで名前の知らない彼女との小さな繋がりがなくなってしまったと思うとなんだか悲しくなる。
「………、あれ?」
 少しの間,公衆電話内でぼーっとしていた僕は気がついた。電話の上に置いてある封筒に。白に小さな模様が描かれた可愛いらしい封筒。そこには『傘、ありがとうございます。』と整った字で書かれていた。
 見つけるやいなや持っていた鞄と傘を放るようにその場に置き、僕は封筒を手に取る。
「まだ,おわってない!」
 手に取ると確実にその中に便箋が入っている感触があった。
「よし」
 生涯初めての女性からの手紙の重さをじっくりと感じながら丁寧に封を切る。胸が高まるような、気恥ずかしいような気持ちで中身の手紙を広げた。

 『こんにちわ。まず最初に謝っておきます。手紙でごめんなさい。昨日はわざわざ私のために傘をを持ってきてくださったのに、普通ならちゃんとお会いしてお礼を言うべきなのでしょうけどこんなかたちでごめんなさい。』

 封筒と同じデザインで飾られた便箋だった。あまり女子らしさの主張が少ない,可愛らしいというよりも,整った文字がそこには並んでいた.

『あなたに実際に会って、そこでお話をすることを考えると恥ずかしいので.でも、あなたとの小さな繋がりを、突然の雨が起こした小さな偶然の繋がりをなくしたくなかったので手紙を書くことにしました。読んでくれていますか?』

 雨が起こした小さな偶然の繋がり,ね.そうか,わくわくしていたのは僕だけじゃなく,彼女の方もだったのか.そうか.昨日の印象よりも少し丁寧になった言葉づかいの文章を僕は公衆電話の中で読み進めていく.

『昨日は突然の雨で、私は傘を忘れていたんです。いつもなら折り畳みを持っているんですけど、その前の雨のときに使ってそのまま。うっかりでした。仕方ないので学校から一番近い公衆電話まで走って行ったんです。でも家に誰もいなくて繋がらなくて、どうしようかと思っていたらあなたと目が合ったんです。この公衆電話を使う人はほとんどいませんから,珍しかったのですか? 目が合ったとき私はなんだかあなたが助けてくれる、そんな気がしたんですよ。』

 そうだ。
 わかった気がする。僕がなんで彼女に傘を持って行こうと思えたのか、どうして気になって仕方なかったのか。
 彼女が公衆電話を使ってたからだ。携帯電話をほとんどの高校生が持っている今。その中、誰も使わなくなった公衆電話を使っていたから気になったんだ。その非日常と,時代錯誤なワンシーンに惹かれていたんだ。手紙も同じだ。メールじゃない。そう、彼女は公衆電話少女だ。うん,いいね.公衆電話少女.僕は嬉しくなって,彼女がそうしていたように受話器を手に取り,耳に当ててみる.あたりまえだけど,何もそこからは聞こえない.誰とも繋がっていない.でも,確かにこの場所で僕と彼女は繋がっている.素晴らしい.僕は受話器を戻して,手紙に視線を戻す.

『そして本当にあなたは傘を持って来てくれた。ほんとうにありがとうございます。絶対にこのことは忘れません。』

 これで手紙は終わっていた。そして最後に名前が書いてあった。『安藤 鈴乃』
「すずの,か」
 昨日のことを思い出してみる。自分のしたことながらよくわからないことをしたと思う。まさしく,若気の至りだろう.
「あ」
 そうだ、昨日最後にすずのが言った、言葉を思い出した。
『あ,名前――』
 もう一度手紙を見る。
 「っ、よし」
 手紙を封筒にしまい、それを制服のポケットにゆっくりと入れる。そして鞄からレポート用紙を取り出す。
 僕も手紙をかこう。誰も使わないこの公衆電話なら置いていても他の人には見つからないはずだ。それにここに返事を置いていたらすずのは見つけてくれるはずだ。間違いない,なんたって彼女は公衆電話少女なのだから.
 シャープペンを握り、彼女のことを思い出しながら何を書くかを考える。
『お元気ですか? 僕は元気です。手紙読みました。』
 これだけを書いてそのレポート用紙を見つめる。
 違うな。
 消しゴムですべて消す。
 手紙を書き始める定番は使えないようだ。はじめてのお手紙はなかなか手ごわい。
 とりあえず真っ白の紙に黒い鉛筆文字はさすがに物寂しい気がするので、緑色の色ペンに持ち替えて書くことにした。ボールペンなので書き直しがきかない。
 結果,レポート用紙を10枚近く駄目にしてやっと,僕は彼女への返事を書き終えた。
 出来るだけ無愛想にならないように、出来るだけきれいな字で、書いた手紙。
 封筒なんてあるわけがないので2枚折りにして、そこに『安藤 鈴乃さんへ』と書いた。
 それを公衆電話の上に置いてボックスから出る。
 白い紙、緑の文字、短い手紙、誰も使わない公衆電話.きっと,間違いなく,彼女にこの手紙は届く.

『手紙ありがとう。安藤鈴乃って言うんですね。僕の名前は根本御幸と言います。下の名前はみゆきと読みます。男らしくない名前でしょう? だから僕はこの名前が気に入っていません、もう少し男らしいのがよかったから。
 傘、どうも。別に実際に会って返してもらわなくてもよかったですよ。もう返ってこないかなと思っていたので返ってきてうれしいです。こんな風に手紙をもらえただけで十分です。僕もこのまま、雨とこの公衆電話が起こした偶然の小さな繋がりを消したくないと思います。だからこの返事を書いています。ちゃんと届いていますか?』
 
『ちゃんと届いていますよ。とても驚きました。それにとてもうれしかったです。少しだけ期待していたんですけど、まさか昨日の返事がいただけるなんて本当にありがとうございます。根本御幸、みゆき君ですね。すてきな名前だと私は思いますよ。
 根本さんひとつお願いがあります。この誰にも使われていない公衆電話で、こんな風にお手紙を交換してくれませんか? もしよろしければよろしくお願いします。』

『手紙ありがとう。もうさすがにないかなと思っていたんだけど、ある気がしてここにきてます。返事があってうれしいです。
 僕も安藤さんと同じことを思っていました。こちらこそよろしくお願いします。これからもこの公衆電話で手紙交換をしましょう。』

『ありがとうございます。これから仲良く手紙を交換していきましょう。
 と、言ってもあらためて手紙を書こうとしても何を書けばいいのかわかりませんね。
 なので、自己紹介をしたいと思います。私の名前は安藤鈴乃と言います。府立高校の1年生で16歳になりました。誕生日は4月20日です。部活は放送部に入っています.ペットに猫を飼っています。なので動物の中では猫が好きです。みゆき君は犬派ですか?』 

『いいですね! 自己紹介.僕の名前は根本御幸と言います。ご想像通り,犬派です.そして左利きでもあります.市立の同じく1年生で、16歳になりました。なんと誕生日は安藤さんの前日の4月19日です。偶然ですね。部活は何もやってません。でも、一応生徒会の書記です。特に仕事はないですけど。趣味は映画です。暇な日が多いのでよくゆるい邦画を見ています。』

『誕生日が一日前なんて本当に偶然ですね。なんだかうれしいことですね。それにですね……』

 日々の中に,秘密があると言うのは人の生活を豊かにする.その秘密というのは,スリルとサスペンスにまみれた秘密ではない,こっそりとひそひそ声で話した,修学旅行の夜に共有したような秘密じゃなくちゃいけない.スケールは大きすぎず,特別も,急展開もない,ゆっくりとした5月の浮足立った空気みたいな秘密.金色のぴかぴかしたきらびやかなものではなく,薄い青色のような淡い秘密.
 僕は放課後になることが待ち遠しくなった.どれだけ疲れていても,公衆電話に入って手紙を見つけるとそれだけで次の日も頑張ろうと思えた.新しいことも始めることにした.自分なりに今まで見た映画を参考にしながら,短い物語を作り始めた.もちろん,世界崩壊の危機も,悪の組織も,不治の病も出てこない.公衆電話の中でこっそりと始まって終わるようなそんな物語だ.

『昨日の手紙に入っていた猫の写真、あれが安藤さんの飼っているリンだね。かわいいですね。負けじと,僕も今日はDVDを入れています.最近の一番のお気に入りの映画です.よければ見てください!』

『……御幸くんとの手紙交換もこれで20通目になりましたね。手紙を待つ楽しさで私は毎日楽しいです。それではまた、お返事を楽しみにしています。』

 気がつくと1ヶ月が過ぎた。
 公衆電話で手紙を読み、返事を書いて放課後に入れに行くことが習慣になった。
 レポート用紙が便箋に変わった。
 それに安藤さんと書いていたのが鈴乃になった。この公衆電話で,間違いなく僕と鈴乃は繋がっていて,そして確実に近づいていた.

 そして僕は今日も21通目の手紙を書くためにいつもと同じように学校帰りに誰にも使われていないあの公衆電話へと向かう。
「じゃあな、木村」
 学校が終わるとすぐに友達にあいさつをかわして、教室を出る。
「おぅ、根本。おまえ最近なんか毎日楽しそうだな。なんかいいことでもあるのかぁ?」
「ん、そうだな。あるかな。また話してやるよ。ああ、それと根本じゃなくてみゆきって呼んでよ、な」
 鈴乃がすてきだって言ってくれた名前、女っぽいけど今はお気に入りだ。
「おぅ、どういった気の変わりだ。じゃ、ばいばい、みゆき。天気崩れるみたいだから気をつけてな」
 教室を出て、生徒会室に寄らずにそのまま学校を後にする。
 学校から公衆電話までの道のりが一番楽しい気持ちになる。今日の夕飯はハンバーグだよ,と言われた5歳児の気持ちに似ているかもしれない.楽しいもの,嬉しいものが待っている感覚.
 公衆電話のある公園の前の交差点の信号が赤なので立ち止まった。見上げると分厚い雲が空に広がっている。信号が青に変わり、もうすぐの見える公衆電話を目指して僕は歩き出した。
 あともう少し。そう考えると思わず早足になった。
 公園の入口のすぐ入ったところ。いつも通りならそこに公衆電話がある。
「な、なんだよ、これは……」
 だが、そこには公衆電話は、なかった。
 ただ公衆電話があったであろう痕跡の四角い穴がぽっかりとそこに開いているだけで、誰にも使われていない公衆電話はなくなっていた。
 僕と鈴乃を結ぶ、公衆電話がなくなっている。
「……」
 どうしようもなくて、僕はそこに立ち尽くすしかなかった。 
 風が強くなるのを感じる、肌に水の感触がする。雨だ。
 急に降り出した雨は勢いをすぐに増して降り始めた。
「ああ、傘持ってない」
 そういえば鈴乃との偶然の出会いの日もこんな感じで雨だった。でも、今日は僕が傘を持っていないし、なにより公衆電話がない。
 鈴乃との手紙交換はどうなるのだろう。
 また会えるのだろうか。
 このまま会えなくなったりはしないだろうか。
 目尻があつくなる。こんな事を考えていると雨やどりをすることを忘れてしまっていた。もう大分体が濡れている。
 どうしよう。
 もうどうでもいいかな.まさか,公衆電話がなくなるなんて思いもしなかった.誰に,この気持ちをぶつけよう,このどうしようもない喪失を伝えよう.すずのに,会いたい.
手紙でのやりとりに満足はしていた.そこから先に,進むことも望んでいた.でも,そのきっかけがないままだった.今は思う.どうしようもなく鈴乃に会いたい.会って伝えたかった.僕がこのつながりを大切に思っているということを.
 そう,思ったとき雨がやんだ。

 違う。傘が僕の上に差し出されたのだ。
「風邪、引きますよ? 御幸くん」
 振り返るとそこには右手を上げて,僕へ傘をさす鈴乃の姿があった。
「どうも、実際に会って話すのはあの雨の日以来だね。……公衆電話、なくなってしまいましたね」
 まだ,距離感をつかめていないぎこちない会話.鈴乃はそう言うと,悲しそうに公衆電話があった場所を見つめる。
「そうだね」
 このままだと風邪引くだろうし、久しぶりだし、なくなっているし、いろんな意味で僕はそう答えた。
「……あの」
「傘、ありがとう。鈴乃」
 鈴乃が何かを言いかけていたのを遮って言った。
「あのさ、鈴乃。僕」

 強い雨に打たれ、同じ傘に二人。
 二人を繋ぐ公衆電話がなくなった。
 だからその代わりに二人を繋ぐ新たなものを今作ろうと思った。
 手紙ではもうすっかり打ち解けていたのだけれど,こうして面と向かって話すと,違和感がある.これが,今の僕たちの距離だ.もう,2人の間にあった公衆電話はなくなてしまった.でも,大丈夫,もう,僕たちはしっかりと繋がっている.
「僕、鈴乃が好きだ」
 さようなら、公衆電話。
「私も、同じ気持ちです。みゆきくん」
 よろしく、鈴乃。
 
 
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【2012/04/15 17:51】 | 短編小説 | トラックバック(0) | コメント(4) | page top↑
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コメント
No title
これはまた、懐かしい作品を。

なんというか、本当に君がこういうストーリーを書けることが羨ましかったのを思い出したよ。
感性って鋭くなったり、衰えたりするけど、無くならないものなのだと信じたいね。
ボクも高校の時のようなやつをもう一度書いてみたくなったよ。
【2012/04/15 18:05】 URL | さとっちゃん #6x2ZnSGE[ 編集] | page top↑
懐かしー!!どっちかと言うと相合い傘のやつよりこっちが好みやったの思い出した。あと、落ちてた飛行機直して旅に出ようとするけど…みたいなやつ読みたなったわ。
【2012/04/16 01:11】 URL | 1101 #-[ 編集] | page top↑
No title
>さとっちゃん
 懐かしいよねー もう6年前だよ!! 小学生も幼女から少女になっちゃうよ(笑)
 そうなのかー そうだよね! 無くならずに適度に鋭くなって忘れることなく成長していきたいね.
 たまには,自分らし過ぎて恥ずかしくなるものを書こうぜ!
【2012/04/16 19:06】 URL | 岡ざきこ #-[ 編集] | page top↑
No title
>1101
 そうなんか.僕も,なんだかんだこっちに思い入れ多いね.
 その,飛行機の奴,ひっぱり出してあげてみた! 今読むとぞくぞくするねー
【2012/04/16 19:07】 URL | 岡ざきこ #-[ 編集] | page top↑
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