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わらえる.3
 今が未来だった頃のことを思う。

 成人もしていない,ひとりの力で町も出たことのない,幼く,馬鹿でまっすぐな小学生のころ.あの頃の俺たちは、自分たちが世界の中心だった.
 世界で1番面白いやつと、世界で1番足の速いやつがクラスの人気者で.世界で1番強いやつと、世界で1番可愛いやつのグループがクラスのリーダーだった.そんな風に,いろんな世界で1番の人間が集まってできたクラスで,自分たちが「せかいさいきょう」だなんて疑うことなく毎日を過ごしていた気がする。
 廊下に張り出されたテストの結果に群がり、体育のスポーツテストで上位をとればヒーローになれる。背が高ければ席順は後ろになり、体重が重ければブーというあだ名がついた。そんな風に、人の表面に出ている浅はかな個性が最も面白がられ、大切にされていたのだ。
 俺はそこそこ足が速く、皆よりも頭が良かった。だからクラスでの立ち位置は上の中.俺のする話に皆が納得し、尊敬の眼差しを向けてきた。
 宇宙は今も膨張している。
 星は一つ一つが太陽。
 ゴリラの学名はゴリラ・ゴリラ。
 クジラは哺乳類。
 ピカソには超長い本名がある。
 少しの不思議な話,皆の知らない知識.それらがあれば、俺は皆からの注目を浴びることが出来た。
 気になっていた隣の席の彼女に「すごいね!」と言われるだけで世界一の幸せを感じて、明日ももっと凄い話をしてやるぞ、と意気込む。でも、口から出る言葉は「こんなことも、知らねぇのかよ、バカ女」なんて素直じゃない言葉だった.正直になれよ,と今なら思うけど、年頃の男子には仕方のないことなのだろう。

 誰かが、将来は博士になるんだろう、と言った。
 
 俺もそれを疑うことなく、鵜呑みにして、世界をあっと驚かす発見をする博士になるぜ、なんて声を大にして言っていた気がする。
 世界で一番面白いあいつは、お笑い芸人に。
 世界で一番足の速いあいつは、マラソンランナー。
 世界で一番可愛いあの娘は、グラビアアイドル。
 体重の重いあいつは、相撲取り。
 世界で一番強いあいつは、格闘家で世界チャンピオン。

 俺たちの世界は、狭かった。
 どこにも敵はないと,疑うこともない。信じているのは自分たちだけ。
 あの頃の俺たちは迷うことなく、恥ずかしい将来を語り、ただまっすぐにそれを信じていた。
 俺だってそうだった.世界を変えるような人間になって、世界を驚かせる発明をして、お金持ちになって、気になる彼女と結婚するという未来予想図が俺の浅はかな頭にでかでかと描かれていたのだ。今となっては、それがどこに描かれていたのかわからない。分かろうともしていない。
 今が未来だったころ,遠い遠い,昔の話だ.

 階段を登る足音がする。
 今日の晩御飯は何だろうか。
 いつものように、扉を四回叩く音がする。夕飯の合図だ。かすかに、肉じゃがの香りが漂ってくる。いい香りだ。
 扉の下にお盆をおく音。
 そしてその後、控えめに扉を再び叩く音がした。
「ねぇ? あの、少しでいいから部屋から出――」
「黙れよ!」
 せっかくの夕飯のいい香りに,すこし心がはずんでいたというのに,気分が台無しになってしまった.おとなしく,夕飯を置いていけばいいものを.俺は,数少ない貴重な,母親との会話を,その罵声ひとつで終わらせる.
「ご、ごめんなさい」
 そんな俺の一声だけで、怯えたように謝罪をする.扉の向こうで遠慮がちに小さくなる母親を,想像出来た.でも,ただ出来ただけで,そのことへの感想はなにもない.そそくさと部屋の前から去って行く足音が聞こえて,遠くなっていく.
最初からそうしていればいいんだ。
ゆっくり二十秒を数えてから、素早く扉を開けて置かれている夕飯を回収する。香り通り、肉じゃがだった。添えられていた手紙は部屋の外に放っておく。何度も何度も同じような手紙を書きやがって.

 俺は忙しいんだ。
 
 すぐにパソコンの前に戻り、夕飯を頬張りながらマウスを動かす。
 俺の理想を映し出したキャラクターが、村を襲っていたモンスターを倒す。
 報酬としてお金を貰い、パーティでそれを山分けし、新しい武具を揃え、新しいミッションへと向かう。
『次はどんな人助けに行こうか?』
 パソコンの画面にパーティからのメッセージが映し出された。俺たちは最強のパーティだ.誰にも負けない.どこにだって行ける.カネも名誉もなんだって手に入る.簡単な世界だ.俺は慣れた手つきでそれにキーボードを叩き返事を書く.

 今が未来だった頃のことを思う.
 あの頃の俺は自分たちが世界の中心だと勘違いしている,期待とか希望とか、きらきら輝いたものに裏切られることを知らない、可哀想な人間だった。
 もしも、タイムマシンやら何かであの頃の自分に会うことが出来るなら、教えてあげたいくらいだ。
『今の俺たちには、救えないものなんてないっしょ』

 なあ、知っているか?
 俺には世界は変えられない。
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【2012/07/02 23:00】 | 短編小説「わらえる.」 | トラックバック(1) | コメント(0) | page top↑
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 今が未来だった頃のことを思う。 成人もしていない,ひとりの力で町も出たことのない,幼く,馬鹿でまっすぐな小学生のころ.あの頃の俺たちは、自分たちが世界の中心だった. ... まとめwoネタ速neo【2012/07/04 11:15】
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