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ふれたい.
 付き合うことイコール、セックスとか、エッチなことをすることだと考えている俺はどうしようもなく子供で。
 告白をしたら「瑞樹くん、私のことそんな不純な目で見ていたんだ!」なんて言われて、今までの関係が終わってしまうなんて思っている俺はやっぱり子供なんだろう。
 でも俺は思う。男と女なんて所詮はそんな関係でしかないんだ。つまりはやるか、やらないか。やらない恋には愛はなくて。それは友情。ただの女友達となってしまう。
俺は彼女と友情を分かち合いたいんじゃない。欲しいのは、愛情。
 と言っても俺は、そんなことを考えながら彼女に想いを伝えることを出来ずに、友達でも、恋人でもない関係をふわふわと続けている。その関係は俺にすごく幸せな時間を与えてくれるのだ。だからその関係を壊すことが怖いことを理由に、俺は彼女を好きな気持ちを押し殺し、矛盾した毎日を送っている。
 彼女に触れたい。でも触れない。
 俺は知っているから。
 触れない恋は、フラれないことを。
 そう。だから、関係ないんだ。崎乃沙姫があこがれの先輩に告白することなんて、俺には関係のない話。


 
 クリスマスという世間の男女にとって、ましてや高校生にとってはとてつもなく特別なイベントを目前にそなえた十二月の半ば、俺が崎乃と出かける約束をしたのはそんな日だった。
 目覚ましが鳴る前に目が覚めた。ゆっくりと起き上がり、アルミ製のベッドから降りる。マットレスのスプリングが面倒臭そうにキシリと鳴いた。大きく背伸びをして、枕もとの目覚まし時計を手に取る。七時半。学校のない日の目覚めにしては早すぎる時間だ。彼女との約束の時間は昼の一時だから、もうひと眠りを取れる時間は十分にある。だけれど眠気はまったくなくて、そんな気分にはなれそうになかった。緊張でもしているのだろうか。まるで遠足を控えた小学生のようで自分でも笑ってしまう。
 俺は洗顔のために部屋を出て、階段を降りる。
 いや、緊張しているんだ。お出掛けと言う名目のデートに。これで最後になるだろう、それに。
 
 俺がじゃんけんで負けてすることになったクラス委員長で、同じく負けて副委員長になったのが崎乃だった。
 最初は、委員会の内容で少しの会話を交わすくらいだった。それが、いつしか授業の内容になり、友人たちの噂になり、お互いの家族のことになり、自分の好きなもののことになった。俺と彼女はなぜか趣味がまったく合わなくて、いつも彼女のする話は俺の知らないことばかりで、飽きなかったからかもしれない、彼女とはよく喋った。 そんな関係は委員長の役を降りてからも続いた。そして仲良くなった頃に、俺が彼女の好きな映画を見たくなり、彼女が俺の好きな音楽を聴きたいと言った。
 遊びに行こう。という言葉は俺と彼女との関係にすごく便利な言葉だった。デートではない、ただのお出掛け。そんなお出掛けを重ねるうちに俺は彼女を好きになり(本当は最初から好きだったかもしれない)、彼女は俺にあこがれの先輩の話をした。
 
「私、先輩に告白しようと思うの」
 学校からの帰り道、崎乃の言葉は突然だった。最近切ったショートヘアが揺れて、頬を朱に染めながら半笑いを浮かべる彼女は、やっぱり可愛くて、その照れくさそうな微笑みには期待とか、未来という言葉がよく似合った。俺は真っ白い思考に捕らわれそうになるのを何とか抑えて「どうしたの?」とだけ返す。
「もうすぐクリスマスだし、先輩は今年で卒業だから……」
 崎乃が所属するバレー部の先輩が、彼女のあこがれの先輩だ。身長が当たり前のように高くて、笑うと笑窪が左頬にだけできる、かっこよくて時々可愛い先輩らしい。
「ちょっと、相談したいことがあるから、瑞樹くん今時間いい?」
「いや、今日は無理だな。明後日の日曜なら空いてるよ」
 今すぐにこんな話をされても冷静になれそうになかった俺は、小さなウソをついて彼女に約束を取り付けた。そんな小さなウソ、俺が一年以上も付き続けている嘘に比べたらちっぽけなものだ。

 待ち合わせはいつもと同じ駅前のコンビニだ。
 俺は待ち合わせの時間つぶしに無難なファッション雑誌を手にとって、彼女を待っていた。待ち合わせの時間にはまだ十分以上ある。早起きをしたせいで、時間が有り余った俺は彼女に話す内容の復習をして、しっかりと自分の気持ちを心のどこかにある鍵付きの箱に閉じ込めてきた。
 しばらくしてコンビニの自動ドアが開き崎乃がやってくる。高校の制服ではない私服に包まれた彼女は魅力的だった。もしかしたらこれで、彼女の私服姿を見れるのは最後かもしれない。俺は「どしたの? 今日の服装変?」と彼女に突っ込まれるまで見つめてしまっていた。

「そう、昨日母さんに将来それは皺になるって言われてさ」
 俺はあらかじめ用意していたネタで彼女の笑顔を誘う。俺たちは何度か行ったことのあった喫茶店に入りホットココアとカフェラテを注文して、ささやかな時間、俺にとってはとても幸せな時間を過ごした。
 ある程度話題を出し、ホットココアがぬるくなった頃、崎乃があの話題をふった。
「先輩に告白するの、どんな方法でしたらいいか、相談したくて」
「崎乃に告白されるなら、どんな方法でも俺は嬉しいよ」
 なんて、言えるはずなかった。「やっぱり、直接言った方がいいかな?」と言って乙女をしている崎乃に俺は、参考になるかもわからないアドバイスをすることしか出来なかった。
「じゃあ、がんばれよ」
 メールで放課後に先輩を呼び出し、そして直接想いを伝える。俺と崎乃が考えた告白は、結果的に平凡なものだった。でも、彼女は「ありがとう」と笑ってくれてそれだけで俺は嬉しい気持ちになれる。
「じゃ、明日。頑張ってな」
 おかわりのホットココアと、ケーキを食べてから俺たちはお互いの帰路についた。
明日のことを思うと、その日の夜はなかなか寝つけなかった。

 部活はさぼることにした。
 俺はチャイムが鳴るや否や、鞄をかついで教室を後にする。
 それでも、すぐに家に帰るのは“なんとなく”やめて、図書室で時間をつぶすことにした。
 グラウンドからは野球部の声が青々と響き、校内には吹奏楽部の管楽器の音色が繰り返しで流れている。そんな中、ストーブの点いた暖かい図書室で時間を持て余すのも悪くない。俺は何度も時計に視線を移しながら、ゆっくりとした時間を過ごせる……わけなかった。

 もうすぐだ。
 もうすぐ、崎乃は先輩に告白をする。部活の始まる前に、体育館の裏で。

 さかさまに持っていた「走れメロス」を棚に戻して、図書室を飛び出す。外は冷たい風が吹き、一人で過ごすには寒すぎる気温だった。
 何を期待して、俺はそこに向かっているのだろう。
「崎乃っ」
 俺は一度立ち止まり、空を見上げる。
 彼女が体育館裏に悲しげな顔で立っていれば、今の俺は満足なのだろうか? 彼女には悲しい思いをしてほしくなかったのではないのか。何よりも大好きな彼女だからこそ、泣き顔なんて見たいわけないはずじゃなかったのか。熱くなった頭を、熱い想いが駆け昇っていく。
 でも、このまま自分に嘘をつくこともできそうになかった。
 いつか見た映画のように、先輩と仲良く手を結ぶ彼女の手を奪って、走り去るというのも悪くない。
いや、違うんだ。頭に昇ってきた想いを押し返す。俺は、彼女の成功を祈るんだ。
 時折俺は、彼女の関係は何なのか、と考えることがあった。
 そしてその答えは恋人でも友達でもない、俺と彼女の間にだけある特別な関係だと俺はずっと思っていた。
 だけど、それは違ったのだろう。今俺は、彼女の成功を祈っている。これは、この気持ちはきっと『友情』と呼ぶはずだ。そして、その友情にもたくさんの愛はこもっているんだ。
「……っ」
 はく息が白く、そしてその白はすぐに冷たい空気に溶けていく。
 たどり着いた体育館裏には――
 
 誰の姿もなかった。
 
 体育館からボールを床にたたきつける音が聞こえてくる。きっと、その中に笑顔の彼女がいるのだろう。時折、男子の方に照れの混じった視線を送りながら。
「……よかった。か」
「何が、よかったの?」
 俺が小さくため息をついた時、後ろから声がする。それは、聞くだけで幸せな気分になれる彼女の声だった。
「ちょっとだけ、来るのが遅いかな」
 部活前だというのに彼女は制服を着ていて、その表情は「体育館裏って、まるでカツ上げみたい」と笑っていた時のように笑顔だった。
「部活は?」
「サボり。瑞樹くんこそ部活は?」
「……サボり」
 俺はわけがわからずに辺りを見渡す。先輩の姿はなかった。
「私の告白が、成功してほしいと思ってた?」
 崎乃は意地悪そうに目を細めて笑う。
「も、もちろんだ。だって、俺は……」
「俺は?」
「崎乃の、友達だから」
「ねぇ、知ってる? 男子バレー部には背の高い、笑う時に左頬にだけ笑窪のできる先輩なんていないの。でも、ね。背は高くないけども笑う時に左頬にだけ笑窪ができる、かっこよくて時々可愛いクラスメイトはホントにいる。私がよく知ってる」
 俺はバカだ。でも、バカでよかった。
「私は、バカじゃないの。友達から恋人になることもあり得るって思ってるし、瑞樹くんがここに来てくれるってこともわかってたし、クリスマスの予定もばっちり空いてる」
 崎乃は頬を赤く染めて、俺の前まで近づいてきた。
 俺はバカだ。彼女の頬はいつも先輩の話をしながら、俺の顔を見つめて赤くなっていた。先輩に渡せなかったから、と俺と一緒に買いに行って俺が選んだ時計を俺の誕生日にくれた。そして、今日も。
 いつも嘘をついていたのは、俺だけじゃなかったということか。
俺は今までの自分がすごく恥ずかしくなって、でもそれ以上に今彼女が自分の目の前で待っていることが嬉しくて「崎乃、俺もただのバカじゃない」と強がって崎乃をそっと抱き締めた。寒い冬には、二人で抱き合うくらいがちょうどいい。
「バカだよ、瑞樹。こんな時はもっと気の利いた、キュンとするセリフを言うんだよ」
 あれだけ触れるのが怖かった彼女に、今俺は触れている。
 今までの俺は何もわかってなかった。自分の気持ちも、崎乃の気持ちも。
 俺の心の大切な場所にあるこの想いはエッチだとか、不純だとかそんな単純なものではない。ただ抱き合うだけの俺と彼女との間にあるこの気持ちは愛だ。
 やらない恋に愛はないなんて思っていた自分がすごく恥ずかしい。
 俺もクリスマスの予定はばっちり空いているし、崎乃を好きだとはっきりと言える。
 キュンとするセリフかどうかはわからないけど、素直に俺は声に出した。

 
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【2012/09/17 22:38】 | 短編小説 | トラックバック(0) | コメント(5) | page top↑
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コメント
No title
ふれたい、と、思うから恋だし、愛だよなぁ。
ふーむ!

あと、図らずもきゅん、としてしまった私の頭は
まだ高校生で止まってるのかもしれない。笑
【2012/09/17 23:02】 URL | まき #HAB8mY4.[ 編集] | page top↑
>まきさん
 こちらでははじめましてですね.ありがとうございます.
 ふれたい,ってのはすごくおおきな一歩を踏み出さないと,越えれない感情なのです,僕の意見ですが.

 女子と男子との,そういう恋愛の教会と言うものにはギャップはあるもので,そのへんは「ふーむ」って感じです.
 きゅん,としてください.少なくとも僕の精神は高校時代からさして成長していないので.
【2012/09/22 22:47】 URL | ざきこ。 #-[ 編集] | page top↑
あぁ…なんかいいですね。
忘れ物を忘れていた時と場所から思い出せたかのような‥そんな甘酸っぱい想いが広がっていきますね。

素敵でした とっても。
【2012/09/25 12:12】 URL | あーちゃん #-[ 編集] | page top↑
No title
あぁ。こうきますか。
とてもよかったです。
キュン…ときますね!
【2012/09/26 22:56】 URL | 山西 左紀 #0t8Ai07g[ 編集] | page top↑
No title
>あーちゃんさん
 
>忘れ物を忘れていた時と場所から思い出せたかのような‥そんな甘酸っぱい想いが広がっていきますね。
なんて,素敵な感想をどうもです. 甘酸っぱいのは大好きです,もっともっと,甘酸っぱいものを欲します.恋物語は書いてる途中はすごくくすぐったいのですが,そういっていただけると書いた甲斐があります.

>山西さん
 こめんとありがとうございます!!!
 こうきます.すこし,やりすぎな気もしますが,このようになりました.
 キュン! としちゃってください(笑).ありがとうございます.
 
【2012/10/10 00:04】 URL | ざきこ。 #-[ 編集] | page top↑
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