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なつよる。
夏は僕たちを永遠にする。
終わらない夏、あの夏。
すべては一瞬のできごとだ。フラッシュのような日々、夏の夜に溶けていく花火の光。
約束をするなら、夏の夜がいい。
それは一瞬の永遠。一生の一瞬。
あの日の夏の夜には一滴のうそもなく、それは真実なのだ。
「世界を変える」彼がぬるいビールを飲みながらそういったのも永遠になる。
「一生忘れない」彼女の濡れた唇から洩れる言葉も永遠になる。
サイダーを飲もう。からん、という氷の音を聞こう。
僕たちはいつだって永遠を知っている。サンダルを履いて駆け出す季節。愛が始まるのも、はじけるのも夏なのだ。
汗をかこう。せーの、で飛び込もう。
僕たちはいつだって最強だった。夏の僕たちの速さには、誰もついてこれない。すごい速さで、コンクリートの上を走る。笑う。軽やかな笑い声は夏の空に吸い込まれる。それが集まって、にゅーっとした入道雲が出来上がるのだ。

夏は僕たちを少年にする。
少年には夏、少女には夕暮れ。
びいだまのような毎日、夏の光に溶けていくかき氷のしずく。
浸るなら夏の夜がいい。
それは一瞬の恍惚、一生の孤独。
その瞬間には正義はなく、正解もない。
「またあしたな!」彼がタンクトップ姿で後ろ手を振りながら帰る夏も僕を救ってくれる。
「またあしたな!」僕が麦わら帽子を振り回して答える夏も僕を救ってくれる。
ベランダに出よう。今の夜を見よう。涼しい風を感じよう。
僕たちが覚えている限り、永遠なのだ。白いうなじの記憶、汗ばんだ手を握った記憶、そんなものがなくてもあの日々は、夏だった。
よく笑おう。せーの、でスイカを割ろう。
僕たちはいまだって最強なんだ。夏の僕たちは、世界を変えられるし、あの日々に負けてはいない。すごい速さで、コンクリートの上を走る、今のほうが速い。あの入道雲の中に眠る宝物を想像して、今夜はどうも眠れそうだ。

今朝、セミの抜け殻を見つけた。マンションの駐車場の隅っこに。
だれにも見つからないような、アスファルトの上で、彼は成虫になったのだ。
ふふふ、と僕は愉快な気持ちになる。夏の抜け殻だ。
成虫になった夏は太陽のもとに飛んで行って、スイッチを入れる。
入道雲と雨上がりの香り発生装置をオンにする。太陽の温度設定を調整して、水着のバーゲンのチラシを配布する。
額に滴る汗をぬぐいながら、スーツを着るサラリーマンの表情を思い浮かべて愉快な気持ちになる。
扇風機をまわして、あー、と声を出そう。それだけで、夏。
アイスコーヒーのカップの周りの結露でズボンを濡らそう。それだけで、夏。
かき氷を食べた後のベロを見せ合おう。
君のしろいくるぶしを想像しよう。
湿気た蚊取り線香に火をつけよう。
まだ蚊にかまれていないなら、君はまだまだだね。
夜の虫の声が聞こえる。それは笑い声かもしれない。
なつが始まる。今年の夏はどんな一瞬を永遠にしよう。
よく笑おう。それだけで、夏。

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【2015/07/05 21:57】 | 日記 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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