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ひといき! ※そつろん3
 豊かな人間と言うのは,豊かな生活から生まれるものである.感性豊かだったり,心に余裕がある人はそれ相応の生活を送っているものである.
 それはコーヒーひとつを取っても言えることである.自分のお気に入りの豆を自分で購入したあの挽くマシーンでまるでかき氷を作るように,しかしかき氷を作る時の手つきよりも余裕と優雅さを孕んだ手順で挽き,ドリッパーでじっくりと淹れる.その際,お湯の温度にも気を使う.湧きたてのものではなく,90度程度にまでさめたものを使う.生き物を扱うかのように,香りと音を楽しみながら,会話をするがごとき様子にあわせてお湯を継ぎ足し,さながら大地の恵みのようなコーヒーをあらかじめ温めたマグカップへと落としていく.雫が集まり,いつしか泉になり,あるで夜を溶かしこんだような一杯のコーヒーが出来上がる.なんとも豊かだと,素直に感心してしまう.
 インスタントコーヒーを使ったならば,ワンツースリーステップで出来上がるというのに.そんな風に感じてしまう僕の心はまだまだコーヒーの分野に関しては豊かさが欠落しているのだろう.でも,そんな僕でもまったくコーヒーへの愛がないわけではない.インスタントコーヒーとドリップで淹れたコーヒーの味の違いはわかるし,インスタントを入れるときだって出来る限り味を整えるために砂糖は入れないし,お湯も少し冷ましたものを使っている.気休め程度だけれども.

 一度,キーボードを叩く手を休めて背もたれに体を預けて上に伸びる.隣に目をやると,真剣な顔をして多田がスパイダーソリティアにいそしんでいた.
「おい多田.お前,僕をだましていたな」
 もたれかかった態勢のまま多田にそう声をかけると,瞬時に多田はパソコンの画面をエクセル計算の画面に変えた.そして白々しく,白々しさを隠すようにセルに数字を打ち込んで消して,別のファイルを開いた.なんとも自然すぎる作業の一部始終だよ,的な流れなんだ.
「コーヒーでも飲むか」
 僕は席を立ち,給湯室へと向かう.この研究室は学部生と院生が同じ大きな部屋ひとつに一緒に席を構えている.奥には教授用の部屋があり,そして隣の部屋が休憩室兼,給湯室になっている.仮眠用のソファーに,談話用の机,そして給湯の一式がそろっている.
 部屋に入り,先日原咲がお土産にと買ってきたちょっと良い(原咲談)ドリップコーヒーがあったことを思い出した僕は,それを取り出して自分用のマグカップにセットする.なんだか,いつものインスタントよりも豊かな気分だ.
 それに反して,香川先輩はまったく豊かではない.コーヒーに関してはそれはもう.
 コーヒーなんて,先輩にとってはどれも同じらしい.完璧な手順で淹れたそれも,安い缶コーヒーも,インスタントの粉の違いも先輩には全く感じられないというのだ.
「コーヒーなんて,どれもいっしょじゃん」
 この前,原咲が買ってきたこのコーヒーを皆で飲んだ時もそんなことをほざいていた.
 コーヒーがほろ苦い,大人が飲むのみものであることを考えるならば,まったく完全に誰よりも子供である先輩がそういうのも納得がいく話ではあった.
「宇崎―,俺にもコーヒーくれ」
 そんなことを考えている僕をよそに,先輩がだるそうにぼやく.
「そういえば,あれ淹れてくれよ.原ちゃんが買ってきてくれたあの上手いと定評のあるやつ」
「わかりましたー砂糖とか入れときますねー」
 まったく豊かさが足りないぜ,本当に.先輩に数少ない良いコーヒーを淹れるのはもったいないけれども,先輩のお願いを聞かないほどにまで僕は落ちぶれちゃいない.それに,いまは豊かなテンションだから素直に言うことを聞こうと思えた.世界の豊かな人間は常にこんな風な心の余裕を持っているのだろう.
 お湯が沸いてから数分待ち,適温になったそれをゆっくりと注ぐ.2人分のコーヒーを手に持ち,先輩の分は先輩の机の上に置いた.
「どうぞ,先輩.原咲がせっかく買ってきてくれた良い奴なんですから,ちゃんと味をわかって飲んでくださいよね」
「そんなこと言っても,どれもコーヒーなんてコーヒーなわけよ.」
 湯気の立つ中身に,息を吹きかけると先輩はゆっくりと口をつけで飲んだ.
「やっぱり,コンブーはうまいな」
 
 豊かな人間は,豊かな生活から生まれるものである.感性豊かだったり,心に余裕がある人は豊かで余裕のある生活を送っているものである.
 それはコンブひとつを取っても言えることである.自分のお気に入りの海で自分で購入したあの引くマシーンでまるで運動会のように,しかし運動会の時の手つきよりも余裕と優雅さを孕んだ手順で引き,じっくりと乾燥させる.その際,空気の温度にも気を使う.生き物を扱うかのように,香りと音を楽しみながら,会話をするがごとき様子にあわせて乾燥を見守り,さながらというかまさに大地の恵みのコンブをあらかじめ温めたマグカップへと落としていく.塩気が集まり,いつしか海の様になり,まるで夜を溶かしこんだようなコンブが出来上がる.なんとも豊かだと,素直に感心してしまう.
「さすがにコーヒーとコンブの違いはわかるんですね」
「まあ,さすがのおれでも黒いからってコンブーと,コーヒーの違いくらいしょっぱいと苦いだからな,わかるのよ!」 
 いちいちコーヒー,みたいなニュアンスでコンブを発言してくるところに香川先輩のノリノリ感が伝わってくる.コンブだけども.
「もしかしてここにカツオを入れたらもっとうまくなるの?」
 豊かさがどうとか,考えていた自分が馬鹿らしく思えてくる.僕は思わず笑いをこぼして,先輩へつっこむ.そして一緒に歌おう.
「それって,あれですね.カツオとコンブーの♪」
「あわせ」
「え? 何言ってんの宇崎」


 さんはい『そつろん!』
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【2012/01/13 05:02】 | そつろん! | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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